『おーい』

 山の中でテントをしていた二人組。
 夜、ざくざくと地面を掘る音で目が覚めると、もうひとりがいない。それで不思議に思ってテントから出て、地面を掘っている物音のする方にいってみた。するとシャベルでもって地面を掘っている友人がいた。そばには掘り出した土が小山を作っていて、だいぶ深く掘っていることがわかる。
「なにやってるんだ?」
 そうきくと、友人ははっと顔を上げて、きょろきょろあたりを窺った。
「いや、誰かが『おーい、おーい、掘り返せー』って叫んでたから……」
「なんだよ、それ。誰もいないよ」
「そうだよな。おかしいなぁ」
 首を捻る友人を引きずるようにしてテントに戻って、また眠りに落ちた。
 しかしまた、シャベルでもって土を掘る音で目が覚める。そしてまた友人がいなくなっている。慌てて起きだしてさっきの場所を見にいくと、掘り返した土の山がさっきよりも堆くなっていた。友人がまた起きだして穴掘りのつづきをしていたらしい。
 どのくらい掘ったんだろう、と思って穴を覗き込んだところで、背中にどんと衝撃を感じてバランスが崩れる。浮遊感。落下。衝撃。意識が暗転。
 目を覚ますと、身体が穴に埋まっていた。友人の掘った穴から首だけ出した状態で埋められていた。自力では脱出することができない。友人の姿は見えない。彼はパニくった頭で叫んで友人を呼んだ。
「おーい、助けてくれー。おーい、おーい、掘り返せー!」
 助けがくるまで、彼は何時間も何日も何ヶ月も叫びつづけた。



戻る
inserted by FC2 system