『宇宙刑事シャリオン』

 二十一世紀後半、地球は宇宙からの侵略者を迎えた。宇宙魔族による地球侵略が始まったのである。
 地球全土の危機に際して人類はついに一致団結し、各国首脳陣による「地球会議」が組織された。
 宇宙魔族の送り込んでくる怪人どもに対抗するべく、地球会議によって結成された戦隊こそが「地球戦隊ジャスティスファイブ」だ。

 全世界から選りすぐられた戦士はジャスティスレッドを筆頭に、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクの五人だ。五人の戦士は専用の超音速ジェット機で世界中を飛びまわって、怪人を引き連れて現れる宇宙魔族との戦いを繰り広げた。
 しかし激しい戦いの最中、グリーンは宇宙魔族の手によって連れ去られてしまう。無事に生還したグリーンだったが、彼はすでに宇宙魔族の手によって洗脳されていた。
「怪人はすべて地球会議が造っていて、宇宙人がいる場所に送り込んでいるだけだ。宇宙魔族の侵略そのものが地球会議の自作自演だったんだ!」
 電波封鎖されたテレビ局内での戦闘の末、グリーンは拘束されて治療施設に送られた。世界全域に流されかけた誤情報は寸でのところで差し止められ、宇宙魔族の策謀したかく乱作戦はあと一歩のところで失敗に終わったのだった。
 地球戦隊は新たなメンバー、ブラックを迎え入れて生まれ変わり、これまでと同様、宇宙魔族との戦いをつづけてきた。
 しかし、破局の時はふたたび訪れたのである。

「どういうことだ、答えろ、ブルー!」
「これが答えさ、レッド」
 ブルーの手にした熱線銃がイエローの胸を撃ちぬいた。レッドの足許には、イエローと同じように胸部を熱線で炭化させたブラックが倒れていた。
 五色のカラースーツを身にまとって邪悪な侵略者と戦ってきた地球戦隊ジャスティスファイブは、レッドとブルーがそれぞれ手にした熱線銃によって射殺され、五人から三人に減っていた。
「ブルー、貴様……ブラックが宇宙魔族のスパイだと言っていたのは嘘だったんだな?」
「半分は本当だ。ブラックはスパイだったが、その飼主は地球会議の爺ども――要するに秘密警察の人間さ」
「なんだと――!?」
 レッドは己がブルーの口車に踊らされていたという事実を知らされて絶句した。新参者のブラックより戦隊結成時からの仲間だったブルーを信じた挙句が、この惨状だった。
 レッドが、ブルーの提示した偽りの証拠を信じてブラックを銃殺したのと同時に、その光景に注意を奪われていたイエローがブルーに殴り倒され、無慈悲にも撃ち殺されたのだった。
「言え! 何が目的だ、ブルー!」
 レッドが銃口をブルーに向けようとすると、鋭い銃声がそれを制してレッドの足許に球形の穴を穿った。頭部をすっぽり覆う防護マスクの下で息を飲むレッドに、ブルーは嘲笑を放つ。
「動かない方がいい。ピンクが反物質ライフルで君を狙っているぞ」
「な――! 貴様、どうやってピンクを懐柔した?」
「あれも戦士である前に女だった、ということだ。はじめは反抗的だったが、お前にばらすと脅したら大人しく従ってくれたよ」
 レッドのピンクへの想いを知っていればこそ、さらにつづいたブルーの言葉はなおのこと悪魔的だった。
「そうそう、ピンクは新型更生剤の実験にも役立ってくれたな」
 更生剤とは、地球戦隊が捕えた宇宙魔族に対してつかう薬品――自分たちがいかに邪悪で、正義である人間のために奉仕しななければ生きている価値がないのかを身体に教えこむ「更生」時に用いられる麻薬である。
 すなわちブルーは、ピンクを陵辱した上に薬品と肉欲をもって洗脳した、と告げたのだ。
 レッドの視界は激昂で朱に染まった。
「ブルー、貴様は許さん!」
 だが跳ねるように光線銃を構えた右手は、肘から先が千切れて吹き飛んだ。宇宙魔族の貧弱な武装を寄せつけない防護服も、反物質ライフル弾の前では濡れた半紙に等しかった。
 肘から大量の血を流して悶絶するレッドを、ブルーの哄笑が打ち据える。
「いつ見てもいい光景だな、無力な虫けらが泣叫ぶ様というのは。どうだレッド、狩られる側にまわった気分は?」
 街宣車を乗りまわして宇宙魔族を追いたて、五人で一発ずつ銃を撃ちあって誰が止めを刺すかで夕食を賭ける――それが、正義と地球平和の使者ジャスティスファイブに許された特権だった。そのリーダーであるはずのレッドがいまは、激痛でのた打ち回っているのだ。その理不尽さが出血の激痛を超えてレッドを吼えさせた。
「貴様が何を企んでいるかは知らんが、無駄だ。地球会議が貴様の悪事を裁いてくださるに決まっているぞ!」
「ところが、だ。君の始末については地球会議のお爺さま方も了解済みなんだよ」
「なんだと!?」
 レッドはふたたび絶句した。
「最近、市民の皆様方から“地球戦隊はやりすぎなんじゃないか?”という声が漏れ聞こえるようになってね。街宣車で街中を追いまわすのはやりすぎだったようだよ、レッド」
「あれは貴様が、万人に正義を知らしめるために、と提案したことじゃないか!」
「ああ、レッド。君のような男が親友で本当によかった。直情的で短絡的で短慮で無礼で不躾で――騙してもまったく心が痛まなかったよ」
「き、きさまああ!!」
 痛みを忘れ、レッドは咆哮を上げて突進した。
 しかしブルーの射撃がレッドを迎え撃った。赤い防護服は至近距離からの射撃でなければ貫けない。だが、衝撃でレッドの身体を弾き飛ばすには十分だった。もんどりうったレッドの身体を熱線が容赦なく打ち据える。肩、腿、腹、頭と何条もの熱線に殴られて、レッドは転げまわる力すら奪われた。
 発砲の熱がのこる銃口がレッドに近づいて、羽を捥がれた羽虫を傲然と見下ろした。
「地球会議に対するクーデターを企てていた君は、仲間に諌められて暴走した末にその場で射殺される。これが爺ども承認済みのシナリオだ。現場監督の責任で、イエローとブラックの殉職も書き加えさせてもらったが――もう終幕だ。さあレッド、最期の台詞は何がいい?」
「……宇宙魔族の犬野郎め」
 それがレッドの最期の言葉となった。

 この後、地球戦隊はオレンジ、パープル、ホワイトを加えて再編される。リーダーに任命されたブルーの提言によって、レッド時代のオープンな掃討作戦は行われなくなった。地球戦隊の活躍がメディアに露出する回数は減っていき、地球会議に提出される報告書のみが地球戦隊の活動実体を示すものになっていった。
 地球会議がオレンジ、パープルが死亡していたことと、秘密警察員であるホワイトが更生剤中毒にされていた事実を知ったのは、ブルーがカラースーツと光線中で武装した宇宙魔族の集団を従えて地球会議本部を占拠した日のことである。
 クーデターの翌日、メディアに姿を現したブルーは、
「私は宇宙警察の潜入捜査官だ。地球会議の資料を押さえたことで証拠は揃った、この星を宇宙難民法違反で検挙する」
 と宣言したのだった。



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