『ペパーミントはライバル』

 甘く澄み切ったペパーミントがツンとくる。
「へぇ……ハーブティ、好きなんだ」
 わたしは“そんなこと、いままで全然まったく知らなかったわ”って顔してみせる。
「うん、好きだよ。おかしいかな?」
「……べ、べつに」
 一瞬どもってしまったのは「好きだよ」なんて罪作りなセリフを言いやがるから。
「でも、変な顔してる。“ハーブティを美味しそうに飲むおとこなんて、幻滅ぅ”って顔してる」
「してないわよ!」
 コンマ一秒で切り返す。頬が紅くなる暇なんて与えない。
「ってか幻滅するほど、べつに――好きなわけじゃないし」
 ……言ってから後悔、もう激しく。海が割れてモーゼと十字軍が追いかけっこをはじめるくらい、後悔。
「そっか」
 ムカ。
 なによ、『そっか』って。わたしって『そっか』の一言で済まされちゃうくらいの存在なの? ムカムカ。
「そうよ。ハーブティが好きなおとこなんて、べつに好きでも嫌いでもないわ。ってか対象外。だいいち、わたし、ペパーミントって嫌いだし」
 最後のは本当。昔々まだケータイがPHSだった頃、バニラアイスに乗っかってたのを食べたとき以来、どうにも苦手。どうして甘いバニラに苦い葉っぱを乗せるのか、謎すぎる。
「――なあ、アレだろ」
 突然言われて、ちょっとドキ。
「な、なによ。アレって」
「コーヒー、ミルクと砂糖たっぷりじゃないと飲めないでしょ」
 ……当たり。べつにブラックで飲めるのがエライと思っちゃいないけど、ムカ。
「なによ。あんたなんてどうせインスタントしか飲まないくせに」
「残念、はずれ。コーヒーは苦くて嫌い。だからいつも、紅茶」
 くすりと笑う。ドキ。ずるいなって思いつつ、ドキ。
「いいんだ、変な顔されてもコーヒーも飲めないのかって馬鹿にされても。ペパーミントティが好きだから」
「……そ」
 ペパーミントは苦手。ってか敵。甘い香りで誘惑するな。わたしのほうが十倍も百倍も甘くて美味しいんだから――なんて言えるか、バカ。
「ね、ちょっとちょうだいよ、紅茶」
「苦手じゃないの? ま、いいけど」
 で、飲んでみる。
 かすかに甘くてやっぱり苦くて後味すっきり――不味くはない。甘いケーキとセットなら、いけるかも。けど“後味すっきり”って一回こっきりみたいでヤだな、なんてね。
 わたし、やっぱり甘ったるいクリームが好きだなって再確認した、(たぶん)初デート。



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