『母子』

 わたしは母に陵辱された。
 母とふたりきりの夕飯の途中でわたしの意識は途切れた。つぎに気がつくと、わたしは丸裸で椅子に縛りつけられていて、見知らぬ男たちに見下ろされていた。
 あまりのことに動転して周囲を見渡すと――そこはやっぱりわたしの家で、さっきまで夕飯を食べていた居間なのだ。そして母が微笑んでいた。
 わたしは母に見守られて、処女を喪失した。
 痛みと衝撃とに泣き喚くわたしを、男たちが嘲笑う。母も笑って見ている。母の手に携えられたデジタルカメラのレンズも、わたしを見ていた。
 夜明けのすこしまえ、男たちが帰っていく。その頃にはもう、わたしは喉が嗄れて一言もしゃべれなかった。しゃべる気力もなかった。
 母が、わたしを見下ろして言う。
「これは罰なの。わたしは苦しまなければならない」
 母は昔、わたしと同じ中学生だった頃に、同級生の少女に売春を強要させて自殺に追い込んだのだという。だから、その罪を償うために、わたしにも同じ苦痛を与えるのだという。
 わたしの陵辱動画はネットを通じて全世界に配信された。
 世間は母の行動を賞賛した。子の喜びは親の喜び、子の悲しみは親の悲しみ――親子は同体であって、その罪もまた共有される。
 学校に行くと、わたしはクラスメイトたちに陵辱される。男女関係なく、笑っている。
 教師はこう言う。
「きみのお母さんはなんて立派なのだろうか。罪を償うことはすばらしい」
 わたしは妊娠と中絶と自殺と手術をくりかえして、汚されつづけた。わたしが汚れれば汚れるほど、母は嬉しそうに微笑むのだ。
 十八歳になったわたしは、フライパンで母を殴り殺した。親子は一心同体なのだから、罪にはならかった。
 それから、わたしの処女を奪った男たちを殺しにいくと、彼らは年老いた父母の生首をわたしに差し出してきた。わたしはそれをゴミ捨て場に投げ捨てた。
 わたしは罪に問われた。
 町内会員でない者がゴミを、それも指定時間外に不法投棄したことで罰金を課された。とても多額だったので、わたしは身体を売って少しずつ支払っている。世界は変わらない。



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