『死体とおれのツーショット』

 ――まず、状況を整理してみようと思う。
 目のまえに人が倒れている。うつ伏せの女性が、血溜まりのまんなかに倒れている。で、おれの手には包丁。当然のように血塗れ。
「おれが刺したの……かなぁ?」
 残念なことに記憶がない。きょろきょろと見回してみるが地下室のようで、天井の弱々しい照明いがいに光はない。窓もない。ついでに出口は、ただひとつ。開けてみようとノブを掴むが、開かない。こっち側から南京錠が掛かっている。
「つまり密室。しかも、死体とおれのツーショット……犯人はおれ?」
 ――ドンドンドン。
 いきなり扉を叩かれる。つづいて怒鳴り声。
「おい、いるんだろ。わかってるんだ。はやく開けろ!」
「え、え?」
 怒鳴り声はドンドン扉を叩きつづけ、
「この部屋は見てのとおり密室だ。唯一の出入口はこのとおり内側から鍵が掛かっている。つまり、おまえが犯人だ!」
「やっぱり、そう思う?」
 自分では違うと思っていたのだが、そう決めつけられると不安になってしまう。
「思うも思わないも、それが事実だ。真実はひとつだ!」
「そうか、そうだよなぁ」
 じゃあ、しょうがない――そう思って鍵を開けようとしてやっと気づいた。
「あ、鍵がない……」
 南京錠の鍵がどこにもなかった。
「ポケットに手を入れてみろ。右じゃなくて左のほうだ!」
 怒鳴り声にしたがって左のポケットを探ってみると、鍵がでてきた。鍵穴に差してみると、すんなり嵌まった。
「――待ちたまえ。これは冤罪だ」
 背後から声がして、鍵を差しこんだままふり返る。ひょろっとした男が死体の上に片足をのせ、拳をにぎってポーズをとっていた。踏まれるたびに、ぐえっぐえっ、と死体がうめく。
「この事件は冤罪だ。たとえ、きみが自分を信じなくても、ぼくはきみを信じよう」
「ええと……あなたはどこから?」
 さっきまで、たしかにだれもいなかったはずだ。そしてここは密室だ。
「向こうからだが、そんなことはどうでもいい。きみは無実なのだ」
 痩せ男は細長い指で、部屋の奥をしめす。そちらに目を向けるが、弱い照明では奥の暗がりを見ることができない。
「もっと光を――ってか?」
 ぱっと明るくなった。冗談めかしていってみたら、本当に明るくなった。
 ぐえっぐえっ。
「ああ、これで真実が白日のもとに!」
 ドンドンドン。
「犯人はおまえだ。はやく開けろ!」
 もう、うるさくはなかった。飛びこんできた光景に、開いた口がふさがらなかった。

 密室の名は地球だった。



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